令和8年熊本地震口腔衛生支援レポート
IHF FIELD REPORT/令和8年熊本地震
断水の中で後回しになった
「口の健康」
熊本地震・八代地域における口腔衛生支援レポート
飲用、食事、トイレ、身体の清潔保持。限られた水が生活を守るために使われる中、うがいや歯みがきを続けることが難しくなった現場がありました。八代地域で何が起き、どのように支援が届けられたのかを記録します。
聞き取りから見えた現地の状況
本稿は、八代地域で口腔衛生支援に関わった歯科衛生士・今泉さんへの聞き取りと、米山武義理事が9月1日にまとめた現地報告をもとに作成しています。個人の活動としてではなく、施設職員、医療・介護関係者、訪問看護、地域支援者、物流関係者、歯科医療関係者、特定非営利活動法人POIC研究会関係者など、多くの協力によって行われた対応として報告します。
01/被災直後の状況
断水と40度に達する厳しい暑さ
熊本地震の後、八代地域では厳しい暑さが続き、気温が40度に達する日も重なりました。
断水した病院や介護施設などでは、飲み水だけでなく、食事、トイレ、身体の清潔保持など、日常生活を維持するための水が不足しました。エアコンを使用できない施設もあり、八代北部地域医療センターには多くの熱中症患者が搬送されていたといいます。
今泉さんへの聞き取り時点では、ボランティアセンターによる被災・復旧状況の調査を1,500人以上が待っており、今泉さんのところにも、まだ順番が来ていませんでした。
一部の施設で復旧が進んでいても、地域全体の復旧が完了したわけではありません。厳しい暑さの中で、被災した方々と支援に携わる方々の対応は続いていました。
02/断水と口腔衛生
生活用水が優先され、うがいも難しくなった
被災後の八代地域では、給水場所を日ごとに確認しながら水を確保する状況が続きました。建物によっては水が1階までしか届かず、上階へ運ばなければなりませんでした。トイレを流すことができない施設もありました。
限られた水は、まず飲用、食事、トイレ、身体の清潔保持などに使われます。そのため、うがいや歯みがきに使用する水まで確保することが難しく、口腔ケアを平時と同じように続けられない現場がありました。
あるグループホームでは、約1週間にわたり、十分なうがいや歯みがきができない状態が続きました。また、給水車の派遣がなく、水を十分に確保できなかった小規模施設では、発災から10日以上が経過しても口腔ケアを行えない事例がありました。
水だけでなく、紙コップ、歯ブラシ、口腔ケア用品も不足していました。とろみを必要とする方をはじめ、それぞれの身体状況に合わせた対応も必要でした。
施設職員自身も被災しています。限られた人員と物資で利用者の生活を支えながら、可能な範囲で口腔衛生にも配慮する対応が続けられました。
03/支援先
支援物資の提供を含め、21か所をサポート
今回、支援物資の提供を含むサポート先は合計21か所です。
今泉さんは、八代地域で支援に関わった歯科衛生士の一人です。発災翌日から、平時より関わりのあった病院、介護施設、グループホームなどを訪れ、施設職員とともに食事介助などにも携わりながら、口腔ケアを再開・継続するための支援に加わりました。
今泉さん自身も被災者であり、お父様の介護を担っています。お父様をデイサービスに預けられる時間を使い、支援活動に加わりました。支援する側にも家族、生活、仕事があります。災害時の支援は、一人の努力ではなく、それぞれができることを持ち寄ることで成り立っています。
04/支援のつながり
物資だけでは、必要な人へ届かない
被災地では、何が不足しているのかを把握すること自体が難しくなります。物資を送るにも、「何が必要か」「何人分か」「どこへ届けるか」「誰が受け取るか」「配送会社や道路は動いているか」という確認が必要です。
今回は物流が完全には止まらず、必要な物資を比較的早く発送することができました。訪問看護ステーションが物資を届けるなど、職種や組織の枠を越えた対応も行われました。
施設職員
病院・介護関係者
訪問看護
歯科医療関係者
地域支援者
物資・物流関係者
全国の協力者
特定非営利活動法人POIC研究会関係者
受入先の担当者
現地の状況を伝える人、必要量を判断する人、物資を準備する人、輸送する人、受け取る人、施設内で配布する人、利用者の状態を確認する人がつながって、初めて支援が届きます。
05/復旧の経過
施設によって異なった再開までの時間
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発災翌日から
平時からつながりのあった病院や介護施設などの状況確認と、口腔衛生支援が始まりました。
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発災から10日以内
従来から口腔ケアの体制があった一部の施設や病院では、物資、配送、現地の連絡調整、施設職員などの協力により、必要なケアを再開できる状態へ戻りました。
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発災から10日を過ぎても
給水車が来ない小規模施設などでは、口腔ケアを行えない事例がありました。口腔ケア用の水と物資が届けられ、施設職員や関係者の協力によってケアが再開されました。
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約1か月後
上水道は徐々に復旧したものの、水圧、人員、道路などの問題が残りました。デイサービスや通所リハビリテーションは、時間や日数を限って再開する施設もありました。
今泉さんへの聞き取りでは、支援に関わった範囲において、発災後から本稿作成時点まで発熱者は確認されていないとのことでした。これは経過として記録するものであり、口腔ケアなど、特定の支援との因果関係を示すものではありません。
06/継続支援
追加の相談を確認し、必要な支援を判断する
その後も、病院、介護施設、歯科医療機関などから、追加の物資提供に関する相談が寄せられています。現在の状況、必要量、使用目的を確認したうえで、継続支援の範囲を検討しています。
被災に対する支援
現在の水、物資、口腔ケアの状況と利用者数を確認し、導入の有無を条件にせず、必要性に基づいて判断します。
導入に関する検討
機器貸与や試用を行う場合は、災害支援とは別に、期間、費用、管理責任、返却条件などを定めて検討します。
支援物資の量についても、すべての施設へ同じ量を送るのではなく、同じ基準で必要量を確認することが大切です。施設の規模、利用者数、断水状況、在庫、使用目的、地域への配布拠点としての役割などを確認して判断します。
07/次への備え
一度限りの物資提供で終わらせない
今回の経験から、断水を前提とした口腔ケア方法、必要物資、施設ごとの必要量、連絡先、受取担当者、配送手段を平時から整理しておく必要性が見えてきました。
- 断水時の口腔ケア方法を共有する
- 必要物資を支援セットとして整理する
- 3日・7日・10日分の必要量を検討する
- 施設と地域の連絡網を整備する
- 地域の供給・受取拠点を決める
- 利用できる配送手段を確認する
- 支援者に負担を集中させない
- 発災後の経過を時系列で残す
避難所から地域へ移る支援
避難所には、災害関連死や誤嚥性肺炎の予防を呼びかけるポスターが掲示され、避難者が一緒に歌い、身体を動かす機会も設けられました。サロン運営サポーターなど、平時から地域で活動してきた人たちも健康維持を支えました。
学校の再開などによって避難所が集約されると、支援の中心も避難所から地域へ移ります。今後は、地域の医療・介護従事者や住民と連携し、継続できる支援体制へ移行することが課題です。
EMERGENCY SUPPORT
この経験を、次の災害への備えに。
皆様からのご支援を一度限りの物資提供で終わらせず、次の災害時に、より早く、より確実に口腔衛生支援を届けるための体制づくりにつなげます。
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